現場に目標は浸透していますか
目次
~現場の目標設定のポイント~
ある小売店で改善支援を行なった際、「人時生産性を高めるためには、何をしたら良いでしょうか」とパートの方に投げかけました。その小売店では、人時売上高を部門の目標として掲げており、日々の朝礼でも、前日の実績報告をしていたからです。しかし、返ってきた答えは、「何をしたら良いか、分かりません」でした。同じ質問を数人にしましたが、異口同音でした。
人時生産性は、総労働時間1時間あたりの粗利益高のことで、粗利益高を総労働時間で割ったものです。人時生産性を上げようと思ったら、粗利高を大きくするか、労働時間を少なくするかのどちらかとなります。粗利高を上げるためには、POPなど、売場作りが重要となります。一方、労働時間を少なくするには、早く作業ができるような工夫が必要となります。人時生産性を高めるには、どちらかのアクションが、パートの方に求められます。
何をしたら、人時生産性が高まるのか、パートの方が分かっていないならば 、出る結果は単なる成り行きに過ぎず 、目標を立て、朝礼で結果を共有することに意味はありません。パートの方にも、人時生産性を高める仕組みの理解が浸透するよう 、目標設定を工夫する必要があります。
上司が決めた目標をそのまま現場に伝えるのは、いわゆる「火の用心管理」と呼ばれます。「火の用心管理」とは、社長が「火の用心」というと、それを受けた部長も課長に「火の用心」といい、課長は現場にといった具合に同じことが伝言ゲームのように末端まで伝わっていく様子を言います。火の用心管理では、現場で何も具体的な対策が取られないまま、火事になるという、落ちがついています。これは管理職の機能不全を表した話です。
管理職は目標を展開するとき、上からの目標を咀嚼し、部下の理解できる言葉に置き換えて目標展開していくことが必要です。そうすることで、部下は自分が何をするべきかを明確にし、目標に向けて行動できるようになります。 前述の小売店においても、同様で、パートの方に分かるような目標を設定していくことが必要でした。
では、現場の目標設定にはどのようなポイントを押さえれば良いのでしょうか。私が心がけている目標設定のポイントをご紹介します。しかし、現場といっても、製造業から小売・サービスの業種、営業、生産など、職種により異なります ので、以下では、人の出入りが激しい、人の流動性の高い現場を想定しています。人の流動性の低い現場では、初めは目標の意味がわからなくても、職場にいる間に何をしたらよいか、時間の経過とともにわかってくるからです。
1.計算がいらないシンプルな目標
目標は、できるだけ数値で表せる目標を掲げた方が、できたかできないかがわかるので良いでしょう。
目標は仕事中に意識できることが必要で、仕事中に目標を大きく解離するようなことがあれば、対策を打たなければ、数字は変わりません。
何かの作業をしながら、意識できる目標は1つか、2つです。足し算、引き算、割り算、掛け算などがあるような複雑なものであると、1日の終わりに集計して、できた、できなかったという結果だけの確認になってしまいます。
できるだけ、計算が不要なシンプルな目標を絞って掲げていく必要があります。
2.指標と経営数字が直結
当然のことながら、上位の目標と合致しなければなりません。つまり、現場が目標達成すれば、経営の数字も良くなることが必要です。
そのためには、目標設定者が上位の目標の狙いや目的を十分に理解することが必要となります。
3.現場の人の行動に直結
指標を見れば、現場がすぐに動けることが必要です。現場が目標を見たとき、何をやればいいか明確になり、行動ができるような目標が良いです。説明しないと行動を起こせないような目標では、そのつど、説明して歩かなければならないからです。
4.現場の努力が数字に直結
現場が努力して、改善をすれば、変えられる数字を設定しましょう。
自分達の行動以外の外部要因で、大きく数字が変わってしまうような目標では、目標達成の意欲が薄らいでしまい、目標への執着心がなくなります。
自分達の努力や行動が、目標に直結すると、緊張感も出てきて、さらに、やる気も起きてきます。
5.ネーミング
最後に重要なのは、ネーミングです。浸透させるためには、直感的にわかり、伝わりやすいネーミングをつけることも重要です。
ある食品会社では、異物のことを「爆弾」と呼んでいました。食品会社にとっては、異物混入は、最悪の場合、会社を倒産に追い込みかねません。
異物を爆弾と言いかえるだけで、それが悪いもので、発生させてはいけないということが、現場に伝わります。