企業変革の事例紹介

 前回まで実行支援の手法や、意識すべきポイントを説明してきました。今回は実際に私が支援した事例を見ながら、企業変革を進める上でのポイントを説明します。

 

 

企業変革の事例

 

企業の概要

 

 今回、紹介する企業(Y社)の概要は以下の通りです。

 

・企業概要

– 金属加工業:60名

– 取引先:農機メーカー、産業機械メーカーなど

 

・支援の背景

 近隣の企業A社の事業DD、計画策定の依頼を受けていた。A社は、十年近くにわたり赤字であったが、計画初年度黒字化を達成。その情報を得た商工会議所から、ついでにとY社のコンサルティングを依頼されたのが始まりです。それ以降、Y社へは、これまで5年近く支援を行っています。

 

 支援内容は現場改善でしたが、教育を行い、社員のレベルを上げながら進めたいと、事業を任されている番頭の専務から要望を受けました。(その理由は 、これまで数社コンサルタント会社が入ったが、すぐにリバウンドしてしまったり、現場の人間が理解できなかったりすることが多かったとのこと。)

 

 現在では営業を含めて、P/Lの改善にまで支援をしており、昨年度は営業利益率二桁を達成しました。

 

 

変革の基本的な考え方

 

 以下の図がY社支援についての基本的な考え方です。

 

 

①前提条件

 支援に当たっては「中小企業のため、経営者が変えられないこと」「危機感をあてにしないこと」「コンサルタントが常駐できないこと」を前提条件として取り組みました。

 

 「危機感をあてにしない」とは支援先の社員が「危機感を持っていること」を前提としない ということです。業績が悪化していても、社員の方が必ずしも危機感を持っているとは限りません。実は危機感の醸成が一番難しいポイントなのです。

 

②明確な方向性と具体的な手法

 最初に明確な方向性と具体的な手法を伝えて、やることを明確にします。

 

③安心して活動できる環境つくり

 次に、改善を行っても文句や邪魔が入らないよう、安心して活動できる場を作ります。

 

④新しい成功体験

 やるべきことを明確化し、それを実行できる環境を整えて、まずは小さな成功体験を積み重ねていきます。

 

活動の成果を見える化し、成果を認められる環境を作り、新しい成功体験に刷新していくことで、現場の学ぶ意欲が向上し、改善のループが回っていくようになります。

 

 この中で苦労したのが③安心して活動できる環境つくりでした。支援の中で改善提案制度を作り、改善提案を出した社員に500円を出すという施策を提案したのですが、経営陣から抵抗にあいました。「改善は考えて当たり前で500円がもったいない」と言うのです。

 

その時、私は「トヨタでも一人あたり年間8件ですよ。8×500で一人4,000円のコストアップにしかなりません。御社の場合は60人なので、一人4,000円払っても大した金額にはならないでしょう」と経営陣を説得して、施策導入にこぎつけました。

 

 

時系列での実行施策の流れ

 

 ここからは実行した施策を紹介していきます。

 

①改善提案制度の刷新

 最初に取り組んだのは先ほどもご紹介した改善提案制度の刷新です。これは改善提案により考えるクセをつけてもらうこと、そしてやる気の見える化とやる気のある人が報酬を得られるという意識付けを目的として行いました。提案内容に関わらず必ず500円を貰える制度にして、提案することへの心理的ハードルを下げる工夫をしました。

 

②2S活動の実施

 管理職に対しては週に一回、時間を決めて2S活動(整理整頓)に取り組んでもらいました。

 

 これは管理職の本気度を社内に示すと同時に、管理職間のコミュニケーションの活性化を目的として行ったものです。まずは管理職が行動で示さないと一般社員は動かせません。また、2S活動を行い、短期的な成果を見える化して実感してもらうことも目的としていました。

 

③2S活動の全社展開

 管理職による2S活動が定着化してきたら、それを全社での活動に切り替えました。全社で行うことで整理整頓が全社的に展開されるようになり、職場環境の改善が加速していきました。

 

④私の行動宣言

 社員一人ひとりに対して、個人で目標を立てて、1ヶ月ごとに自己評価と面談を行う形で社員教員を実施しました。これは社員個人の目的意識の醸成とPDCAを回す訓練として行ったものです。

 

⑤GPIの設置

 GPI(GEMBA Performance Indicators)とはKPIを現場での行動につながるような形に改良した指標です。

 

職場ごとにGPIを設定して、日々状況を記録し月次で報告してもらいました。GPIの設置は職場ごとに明確な目標設定を行い、大きな課題に取り組んでもらうことが目的でした。

 

 

ここまでの施策を、支援開始から3年ほどで行いました。しかし、最初は成果が上がってきますが次第に改善度が停滞してきます。

 

 

そこで3年目以降は以下に紹介する⑥以降の施策を実施し、現在も継続しています。

 

⑥経営戦略の策定

 会社の進む方向性を統一するために、ストーリーを作り経営戦略を立案しました。具体的には以下の「工場の商ルーム化計画」です。

 

 これは工場をただ製造の場として考えるのではなく、ものづくりを外部に見せるショールームとして活かすという考え方です。

 

 徹底的な改善と見える化を図り、外部からの工場見学者を積極的に受け入れるようにしました。工場見学者をGPIとして設定し(⑦工場見学のGPIを設置)、そこから見積もり件数を増やして売上増加につなげるというロジックです。

 

 工場見学者が増えて外部から評価されることで、現場のモチベーションが向上します。このように現場に具体的な指標を持たせることで、コンサルタントが常駐していなくても改善が進むような仕組みを作ることも大切です。

 

 

 また、外部にアピールするために工場の紹介ビデオも作成し、マスコミにも取り上げてもらうようにしました。

 

⑧スモールミーティングの実施

 現場で改善が行えるようになってきたら、職場ごとにQCサークルを作り、自主的な改善活動が実施されるような仕組みを作りました。

 

 このような施策を実施することで、改善の成果が再び表れるようになってきました。現在では次の成長に向けた課題に取り組みながら、一緒に頑張っています。

 

 以下の図が実行施策を一覧にまとめたものです。

 

 

 

コンサルタントとして必要な「3S」

 これまで、内部環境分析から実行支援の進め方まで、私の手法や知見を紹介してきました。最後にコンサルタントとして私が大切にしている「3S」について紹介したいと思います。

この「3S」とは「誠意」、「責任感」、「正確さ」のことです。具体的な内容は下記の通りです。

 

  • 誠意のS

 – もてなしの心を忘れない

 – 約束の期間内に丁寧に仕上げる

 – 主体的に仕事に取り込む

 

  • 責任感のS

– 相手の話に耳を傾ける

– 締め切りは必ず守る

– 批判よりも代案を出す

 

  • 正確さのS

– 計画、段取り重視

– データに語らせる

– ケアレスミスは未然に防ぐ

 

 コンサルティングは実力も必要ですが、それ以上に、お客様と信頼関係が結べるかが重要です。信頼関係があってこそ、良い支援が行えます。そのためには、上記の3Sを意識することがとても大切です。私も、まだ完璧とは言えませんが、常に自分の3Sは心に留めてコンサルティングを行うようにしています。

 

 そしてコンサルタントとして成長するために大切なのは、学んだことを「実行」することです。知識として学ぶだけでなく、現場で泥臭く、もがいて試行錯誤していくことがコンサルタントとして成長するためには必要です。

 

 ぜひ、みなさんもここで紹介した手法を現場で試しながら、成長して欲しいと思います。

 

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