実行支援の進め方

 

 

今回は実行支援を進めるにあたってのポイントについて、解説していきたいと思います。

 

実行支援の進め方

 

「戦略」と「実行」

 

企業変革の実現の要素は「戦略」と「実行」です。しかし、その二つの要素には大きな違いがあります。

 

 まず企業変革実現に占めるボリュームの違いです。「戦略」が占める割合は5%程度でしかありません。実際には「実行」が95%を占め、いかに立案した戦略を実行できるかが企業変革を行う際に重要な要素となります。

 

 「戦略」は結局、机上で作るものですが、「実行」は現場で行わなくてはなりません。相手との関係性に関しても、「戦略」の場合は一つの診断報告書を多数の相手に提示するという「一対多」の関係ですが、「実行」の場合はより複雑に絡み合った「多対多」の関係になります。

 

 求められるスキルも異なります。戦略立案は論理的思考力やプレゼン力が重要となりますが、現場で実行支援を行うには問題解決能力やコミュニケーション能力が重要になります。

 

 

 

 

企業変革のステップ

 

 事業再生は必ず「V字回復」となります。業績が悪化している企業は内部の体制やビジネスモデルが外部環境と合致しなくなっている場合がほとんどなので、まずは最初にリストラなど、止血して膿を出す施策が必要になります。その結果、一時的に業績が悪化し大きな赤字を計上することになります。

 

 変革の改善効果は膿を出し切った後に出てくるので、事業再生の事例を見ると大抵は「V字回復」の形を取ります。ここまでが以下の図のチャプター1「外科的療法」の部分です。

 

 

 しかし、外科的療法だけでは、さらなる会社の成長を導くことはできません。その後の成長のためには新しい戦略やビジネスモデル、ビジョンを作り、実行していく必要があります。それまでと同じものでは、次の成長を導くことはできません。

 この二つのステップには求められる能力が異なるので、同じ人がこなすのは困難です。リストラなどの止血をしながら、長期的な成長の実現を導いていける人はなかなかいません。

 

 大企業であれば経営者を交代することも可能ですが、中小企業の場合は同じ経営者が二つのステップを担っていかなくてはならない点が、企業変革を進める上で難しいところです。

 

 

人が動く ABC理論

 

 企業変革を進める上では、現場の人に動いてもらうことが欠かせません。以下の図は「人が行動する際の流れ」を図解したものです。これは「ABC理論」と言われています。

 

 「先行条件(Antecedent)」とは「人がある行動を取る直前の環境」で目標やゴール、締め切り、上司からの指示に当たります。「行動(Behavior)」は言葉の通り、対象者が取った具体的な行動を指します。そして「結果(Consequence)」はその行動の結果やフィードバックです。

 

 「人はこの流れで自分の行動を繰り返している」と説明しているのがABC理論です。

 

 

 

 では、このABC理論はどのように活用すればよいのでしょうか。

 

 以下の図は従業員が上司から「笑顔であいさつをしてください」という指示(先行条件)を受けた際の行動と結果を示しています。

 

 「笑顔であいさつした」という行動までは同じですが、結果(上司からのフィードバック)が異なります。上の人は指示通りあいさつをしたものの上司からは「そんなことよりも早く作業しろ」と言われました。逆に下に人は上司から褒められました。

 

 このような行動に対するフィードバックの違いにより、対象者の次の行動に影響が出てきます。

 

 「そんなことより早く作業しろ!」と言われた人は、行動の結果、乏しいやりがいしか得ることができず、次の行動につながりません。反対に「笑顔であいさつした」ことに対して褒められた人は次もまた笑顔であいさつをするようになります。

 

 

 

 このようなフィードバックと指示が与える行動への影響度は、フィードバックが80%と言われています。指示をした際には、それに対する適切なフィードバックをすることの大切さを、この理論は示しています。

 

まずはこのような短期的な小さな成功をプロデュースして、自信をつけさせることで、雪だるま式に大きな成功へ導くことができます。

 

 

 

 

 

実行支援の基本的な流れとポイント

 

 ここからは実行支援の基本的な流れとポイントを説明します。

 

 

 

実行支援の基本的な流れ

 

 実行支援は以下の流れで行います。

 

①宿題の確認

まずはアクションプランで明確にした宿題の実施状況を確認します。この際に、成果(何ができたか)を聞いてしまいがちです。しかし成果よりも「何をやったのか」を確認することの方が重要です。成果だけを聞いてしまうとプロセスとしてどのようなことを行ったか確認することができません。

 

フォロー

実行したことや(悪いことも含めた)成果を確認し、その中で困っていることがあればフォローを行います。

 

次までの宿題の確認

そして、次までに何をどこまで行うかを取り決めます。

 

 このような形で実行支援のサイクルを回していきます。

 

 

 

実行支援で押さえるべきポイント

 実行支援で押さえるべきポイントは以下の通りです。

①丸つけをする

丸をつけて、うまくいったことには「OKメッセージ」を送る

②問題点を明らかにする(計画未達のとき)

問題点は徹底的に詰める

③ちょっと上の目標を

飽きさせないよう、成長にあわせ少しずつ目標を上に置く

④良いところに着目する

良いところに着目して、ほめる!

⑤怒らない

カッとなっても怒らない。怒ると、積み上げてきた合理性が崩れる

 

 

以下で具体的に見ていきましょう。

 

①丸つけをする

実行したことに対し、何を実行して、どのような結果(効果)が出たのか、丸つけをします。成果は定量、定性の両面から確認します。横展開できそうなことはないかも検討します。

 

また、現場は、目先の忙しい仕事があるのに、実行してくれています。成果の有無に関わらず、実行していたら「ありがとう」と感謝を示すべきです。

 

 

 

②問題点を明らかにする

丸つけで判明した問題点については、徹底的に原因を詰めていきます。この際に成果が出ないからと言って、やり方をすぐに変えてはいけません。質の問題か、量の問題かを明確にすることが重要です。

 

 

 

  • ●説教部屋の流れ

行動するつもりのない社員については個別面談(説教部屋)を行います。この際に絶対に全員の前で恥をかかせてはいけません。敵を作ってしまうことになります。

 

1)理由を聞く

「なぜ、やらないか」の理由を聞き、解決をしてあげることが必要です。

(理由の例)

・改善案に合意していない 

・忙しい 

・やりたくない など

 

2)意志の確認

次までにやるのか、意志を確認します。

・やります!  →①改善案を出させる

・できない、やりたくない →②みなの前で「やらない」と宣言させる

 

3)(やります!といった場合)目標の再設定

次までに何をどこまで行うか、調整を含め再設定します

 

 

③ちょっと上の目標を

アクションプランの実行は、常にマンネリとの闘いです。マンネリ化しないように、常にちょっと上の目標を設定してあげることが大切です。具体的には以下の表のようなことを行います。

 

 

 

④良いところに着目する(SF:ソリューションフォーカスアプローチ)

改善というと、どうしても「悪いところを少なくする」ことに焦点を絞りがちです。

 

しかし実際には「悪いところを少なくする」でも「良いところを多くする」でも結果は同じです。出来る限り良いところに注目して、良いところを増やしていく視点(SF:ソリューションフォーカスアプローチ)が重要です。三振の数を減らすよりも、いかにヒットを増やすかという考え方で取り組むということです。

 

なぜ(WHY)を繰り返して問題を解決しようとする手法は、機械などのシステムには有効です。しかし、人に対しては必ずしも有効ではありません。人はロジックだけでは動きません。人を動かすためには成功に焦点を当て、どのようにすれば成功するか(HOW)という視点で見てあげることが大切です。

 

 

⑤怒らない

私も人間なので、決して怒らないわけではありません。ただし、怒らないように心がけています(熱くなることはあります)。

 

その理由は、「怒ると損だから」です。コンサルタントはより合理性が高まることを売っているのに、 怒ると合理性が崩れてしまいます。

 

怒ると敵を作り、その処理に労力がかかるので、非合理です。もちろん、安全と最低限のルールを守らないときなど、怒らなければならない時もあります。そのような時のために、怒る基準はあらかじめ決めて周知しておきましょう。

 

まとめ

 最初にも説明しましたが、企業変革の実現に占める戦略と実行の割合は5:95です。いくら良い戦略を立てても、実行されなくては企業の変革にはつながりません。

 

 実行支援は人も絡むため、ロジックだけではうまくいきません。説明したような手法を駆使しながら、現場に合わせた形で取り組んでいくことが大切です。

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