改善案の作成手法
これまでに財務、外部環境、内部環境の各分析手法や注意点を解説してきました。これらの手法を使い、支援先の状況が把握できたら、いよいよ改善に向けての施策を立案していきます。
今回からは改善案作成の手法や注意すべき点を解説していきます。
目次
改善案の作成
改善案は、継続の「肝」であり、腕のみせどころ
支援先が改善に向けた行動を継続してくれるか。それは改善案の内容にかかっています。相手にきちんと内容が伝わり、行動を継続していくことができる改善策をつくることはコンサルタントの腕の見せどころでもあります。
実効性の高い改善策のチェックポイント
では実効性が高く、継続してもらえる改善策とはどのようなものなのでしょうか。実効性の高い改善策であるかをチェックするポイントを5つ紹介します。
①具体的な内容か?
5W2Hで書かれており、読めば実行に移せるレベルになっているか?
②運用が考慮されているか?
実施する際の手間やチェックの仕方など運用を踏まえた改善策であるか?
③社員が実行にコミットしているか?
改善案を作成するプロセスに合意し、納得しているか?
④背伸びした内容になっていないか?
実行は息の長いプロセス。その場のノリであれもこれも盛り込んでしまっていないか?
⑤前提と問題を誤っていないか?
変えられない事項を問題や課題として、取り上げていないか?
変えられない事項は、前提として捉え、どのようにすればうまくいくかを考える
ここから具体的に見ていきましょう。
具体的な内容か?
改善策は5W2Hで明確に表現されていることが重要です。特に、How(どのように)の部分は、出し惜しみせず具体的な帳票を示したり、やり方を図表などで示したりすることが、診断後の継続につながります。
私は以下のようなアクションプランのフォーマットを使って改善策の提案をしています。支援先の後工程も考えて進捗管理用シートも作成しています。
運用が考慮されているか?
実施する際の手間、チェックする仕組みなど、実際の運用まで考慮した改善策になっているかチェックが必要です。運用の仕組みも提案するとよいでしょう。
運用を考えるときは、下記のポイントを押さえましょう。
・運用の手間が少ない
-入力など作業の手間が少ないこと
・チェックの仕組みも導入する
-「やった」「やらなかった」の進捗管理を行う
・続く運用方法を考える(見える化)
-多重チェックやチェックの集中管理、既存の仕組みを活用するなど
以下の写真のように、〇勝〇負のようなわかりやすい指標でチェックしたり、社内の会議での報告事項として、管理を意識させたりすることで、続く仕組みとすることができます。
目標の見える化 KPI(Key Performance Indicators)
目標の見える化としてよく挙げられるのがKPI(Key Performance Indicators)の設定です。KPIとは利益、不良率、金額など数字で表される結果の指標を言います。
KPI設定の際のポイントはSMART+Cを意識することです。具体的には以下の通りです。
・S(Specific:明確性)
従業員が何をすべきかを明確にでき、実務に直結した指標とする
・M(Measurable:測定可能性)
実務に基づいた計測可能な定量的な指標とする
・A(Achievable:現実性)
従業員も合意する現実的な指標とする
・R(Relevant:関連性)
最終的な目標と関連している指標とする
・T(Time-bound:適時性)
作業が行われた時、もしくは作業が行われた時点を含む短い期間内に、その実施状況を 把握できる指標とする
+C(controlable:管理可能性)
自分の活動の結果が、指標に直結するものとする。つまり自分で管理が不可能な指標を押し付けない
ただ、単純にKPIを設定してもうまくいかないことも多いです。KPIは結果にフォーカスした指標なので、現場の管理者がその結果を因数分解して具体的な改善策に落とし込めないと改善が進みません。KPIでの管理は、管理者の問題解決能力に依存してしまうのです。
よって改善をうまく進めるためには、現場の特性に合った指標を設定することが重要になってきます。私は目標設定にあたってはGPI(GENBA Performance Indicators)という考え方を取り入れています。
GPI(GENBA Performance Indicators)とは
私が考える現場の目標のあり方で、KPIの現場版です。
例えば上図では「20㎏やせる」という目標がKPIです。ただ、この目標では具体的なダイエットの知識が無いと行動に落とし込むことはできません。下の目標のように「1日1万歩歩く」のように具体的な行動を目標にすることで、目標が行動につながっていきます。
右の目標も同じです。人時供給高の目標数値を与えられても現場は具体的にどのような行動を取ればいいのかわかりません。目標を品出しの完了時間とブレークダウンして伝えることで現場での具体的な行動につながっていきます。
なぜ、GPIが必要か?
では、なぜGPIが必要なのでしょうか。理由は以下の通りです。
①「会社の業績」と「社員の給料」がリンクしない
現場のがんばりにより
業績が向上しても(KPIの指標が改善されても)、給与に反映されないのでは、自分事として取り組んではもらえません(経営環境、人事制度など)。現場の方に自分事として取り組んでもらえる指標がGPIです。
②数字での評価が難しい
現場仕事は業務の連鎖であり、がんばりを数字で評価するのは簡単ではありません。がんばっても数字には現れなかったり、逆に特別なことをしていなくても運よく改善が進んだりする場合もあります。厳密に数字だけでがんばりを評価するのは困難です。
③減点主義になりがちな現場管理
例えば「トイレが汚いと怒られるが、きれいだとほめられることもない」といったように現場管理は減点主義になりがちです。これはきれいな職場が当たり前という管理する側の意識であり、「きれい」を維持するのは実は難しいのです。
④逸脱行為のリスクを少なくする
③ともつながりますが、数字での目標を現場に強く押し付けると、逸脱行為を招くことがあります。達成が不可能な目標や、自分たちでコントロールできない指標を押し付けてしまうと事実を隠したり、不正な方法で目標を達成しようとしたりしてしまいます。
GPI設定のポイント
では具体的にGPIはどのように設定すればよいのでしょうか。GPIを設定する際のポイントは以下のとおりです。
1.現場の努力で数字が変化し、シンプルな指標であること(計算が不要)
現場が努力をすれば、変えられる数字(管理可能費用 )で設定することが必要です。現場で変えられない費用を設定しても、モチベーションは上がりません。また○○率のような割り算、掛け算で算出する指標は数字遊びになりやすいので、回数や時間など簡単にカウントできるような指標とするようにしましょう。
2.毎日、はかる
毎日測定を行い、現場の意識が途切れないようにします。
3. ほめる材料であり、さらし者にものにしない
大切なのは現場の人たちが成長することです。基本的には達成した際にほめる材料とするべきで、達成できなかった人をさらし者にしてはいけません。そのようなことを行うと、先ほど説明したような逸脱行為を招くことにもなりかねません。
4.誰でも結果が見える
実際の結果がどうだったのか。一部の人だけでなく誰にでもわかるように、見える化しましょう。
5.経営数字の先行指標となるもの
指標が良くなれば、経営数字も良くなるように設定することが必要です。
6.現場の人の行動に直結するもの
指標を見れば、現場がすぐに動ける指標であることが必要です。
7.遊び心
ネーミング、表などに遊び心を取り入れて、現場の人が取り組みやすくなるような工夫をしましょう。
GPI設定例
GPIの設定例は以下の通りです。
【生産現場】
・段取り回数
・目標時間内の作業の完了回数
・残業回数
・作業の短縮時間
【小売店】
・作業完了の時間
・前進陳列の回数
・品出しの完了件数
・キャンペーン
・商品の紹介件数
まとめ
今回は改善案の作成手法について解説しました 。改善案は理想を押し付けるのでなく、現場が継続的に実行できる仕組みを作ることが大切です。次回も引き続き改善案の作成について解説していきます。