私が大切にしている8つの「心がけ」

前回は仕事を受注し続けるためのビジネスモデルを紹介しました。ただ、ビジネスモデルを考えればそれで安定的に仕事を獲得できるのか、顧客から評価を得られるのかと言われると、必ずしもそうとは言えません。

コンサルティングは人と人との関係性を無視して行うことはできません。どんなに理屈では正しくても、相手に納得して実行してもらえなければ、価値を提供したことにはなりません。

顧客が納得し、価値を感じてもらえるコンサルティングをするためにはどうすればよいでしょうか。今回は私が心がけていることを紹介します。

 

 

そもそも、コンサルティングとは?                         

 

 忘れている方も多いのですが、コンサルティングとは「サービス業」です。それでは、サービス業の特性とは一体何であったでしょうか?

それは「形がない」「商品(提供価値)が見えない」という点です。言い換えると、顧客からは「コンサルタントがどんなことをしてくれるのか」「診断してもらうことで、自分たちにどんなメリットがあるのか」ということがよく見えない、ということです。

 物販や飲食のように明確な形があるものではないので、自分が提供できる価値を顧客に正確に伝えなくてはなりません。まずはこの前提をきちんと理解しておく必要があります。

 

 意思決定の3要素

人間は何を基準にして意思決定を行っているのでしょうか。私は意思決定の構成要素は「合理性」「価値観・倫理観」「感情」の3つだと考えています。

図表1 意思決定の3要素

 

 合理性とは名の通り「理にかなっている」ということです。数字やロジックに矛盾がなく、論理的に正しい状態のことです。

合理性があることは人間の意思決定にとって1つの重要な要素です。診断士が提案する施策と期待効果の関係性が不明確であったり、期待効果の数字の根拠が適当であったりするようでは、顧客に納得してもらうことはできないでしょう。

 では、提案に合理性がありさえすれば意思決定してもらえるのかというと、それは必ずしも正しいとは言えないでしょう。

 その理由が、「価値観・倫理観」「感情」という残り2つの要素にあります。

 「価値観・倫理観」とは「他人に譲れない自分の原理原則」です。自分は何を最優先するのか。例えば経営者の価値観ということで考えると、「利益を最大限追及する」のか「利益はそこそこでも社会への貢献を重視する」のかといった考え方の部分になります。これらの考え方は経営理念にも表れます。

 価値観や倫理観はその人が生きる中で蓄積してきた原体験によって作られています。よって他者が評価や指導をしたところで、変えることはまず不可能です。「合うか合わないか」それだけと言っても過言ではありません。良し悪しの問題ではないのです。

 「感情」は説明するまでもないですが、人間であれば誰でも持っているものです。感情を抜きにして人間関係を語ることはできないでしょう。

 3つの要素のうち、コンサルタントの土壌は「合理性」の部分だけです。残りの「価値観・倫理観」「感情」の部分は顧客の土壌(立場)です。顧客の価値観や感情を無視して合理性だけを追求してはいけません。

 顧客とのコミュニケーションを円滑にし、自分のコンサルティングが価値のあるものと感じてもらうためには、「価値観・倫理観」や「感情」という顧客の土壌にも理解を示しつつ提案を行うことを常に意識しておかなくてはなりません。

 

私が大切にしている8つの心がけ

 これらのコンサルティングサービスの特性や意思決定の要素を踏まえて、私がコンサルティングを行うにあたり、心がけている8つのことを紹介します。

 

 1.サイエンスを追求し続ける

 先ほども書きましたが、人の行動には環境や過去の経験など、何かしらの背景があります。そのロジックをよく観察し、その行動がどのような背景から引き起こされているのか、よく考えて接することが必要です。

 

2.期待値をコントロールする

 上述の通り、コンサルティングはサービス内容が顧客からは見えづらいという特徴があります。顧客が自分の提供するサービスにどのくらいの期待を持っているのか把握し、それをコントロールすることが、よい評価を得るためには必要です。

 自分のサービスに対する顧客の期待値が低すぎると、そもそも仕事を受注することができません。逆に相手の期待値が高すぎると、自分は完璧にやったつもりでもクレームになってしまう可能性があります。

 自分の提供できる価値を正確に伝えて、相手の期待値を適切な水準にコントロールすることは非常に重要です。

 

 3.上から目線ではなく横から目線

 現代ではインターネットの普及により、知識の入手が以前よりも容易になりました。よって知識を「教える」「指導する」という姿勢では、顧客が満足する価値を提供することはできないでしょう。顧客と同じ目線(横から目線)で物事を見て、どうすれば知識や理論を現場に応用し問題解決を図れるのか、支援者として一緒に考えていく姿勢が必要です。

 

 4.役割の違いを認識し、接する(違いを伝える)

 コンサルタントと経営者の役割は異なります。経営者は0から1を生み出していく人です。対してコンサルタントは1を10→100→1,000と変えていくことが役割です。また経営者は「事業のプロ」であり、コンサルタントは「変革のプロ」です。

 これらの役割の違いを明確にしておかないと、コンサルタントは「何でもできる魔法使い」のように考えられてしまい、顧客の期待値を必要以上に上げてしまいます。

 このような期待のズレを防ぐために、役割の違いはきちんと伝えるようにしています。

 

 5.二匹目のドジョウは狙わない

 他社の成功事例をそのまま真似ても、うまくいくとは限りません。その会社の置かれた経営環境などの前提条件を理解し、身の丈に合った戦略や実行策を立案していかなくてはなりません。二匹目のドジョウがいるかどうかは、わからないのです。

 

 6.あるべき論を言わない

 人間はそれほど強い存在ではありません。頭では正しいとわかっていても、なかなか実行できないのが人間なのです。合理的でロジックがしっかりした「正論」であったとしても、

それをそのまま上から落とすことはしないようにしています。

 

 7.軸を持つ

 自分の判断のベースとなる軸を持つことも大切にしています。その軸を基にして「もし自分が○○ならどのように意思決定するか」というシミュレーションは常に行うようにしています。

 

8.「守」「破」「離」

 「守」「破」「離」も大切にしています。教えられた通りにまずはやってみる。そして、それから自分なりに考えて型を破り、新しい考え方や手法に昇華させていくというプロセスが大切です。

 

自分なりの「心がけ」を明文化しよう

 私は、これら8つのことをコンサルティングするにあたっての「心がけ」として、常に意識しています。ただ、コンサルタントのタイプは千差万別。自分のカリスマ性を活かし、相手の意見に関わらずバッサリと変革を進めていく「大ナタタイプ」。地頭の良さや回転の速さで相手に切り込んでいく「カミソリタイプ」。目の前の課題をコツコツとこなしていく「カマタイプ」など人によってやり方は様々です。

 大切なのは自分がどのタイプかをきちんと見極めて、身の丈に合ったコンサルティングを行っていくことです。誰しもが「大ナタタイプ」である必要はないのです。自分の性格や特性に合わないやり方では続かないでしょう。

みなさんも是非、自分の特性を見極めた上で自分なりの「心がけ」を明文化し、行動方針を定めた上でコンサルティングを行って欲しいと思います。

 

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